会議の途中、同僚からふと放たれた言葉がありました。

「紙カタログって、まだ意味あるの?」

一瞬、空気が止まったような気がしたんです。

たしかにWebカタログやPDFは更新が早いし、配布コストはほぼゼロ。検索だってできるし、URLひとつで広がる世界もある。予算が厳しければ厳しいほど、紙を削ってデジタルに寄せたい気持ちは理解できます。

でもその一方で、展示会や対面の商談で、分厚い紙の束が静かに役割を果たしている光景を何度も見てきました。ページをめくる音や、紙の厚み、指先に残る感覚。合理性の物差しだけでは計れない価値がそこにある。

だから私は「擁護か否定か」のどちらかを選ぶのをやめました。迷いをそのままテーブルに置くことにしたんです。この記事は結論を押し付けるものではなく、現場で感じた矛盾を出発点に、紙とWebの距離をどう設計するかを考える試みです。

展示会で印刷物を見る人

会議で飛んできた「不要論」の正体

経営会議の資料に並ぶ数字は、どれも削減効果がはっきりしているものばかり。印刷費、配送費、保管費。紙をやめれば確かにグラフは美しく下がります。DXの文脈では、紙は「古い」ものとして扱われやすい。

けれど外に出れば景色は少し違います。展示会場の通路で、来場者が何気なく手を伸ばす瞬間。ブース前でページを数枚めくり、「このシリーズって耐熱どのくらい?」と聞いてくる瞬間。そういう小さなきっかけから商談が動き出すこともあるんです。

ある営業がこんなことを言っていました。

「リンクを渡しても見てもらえない。でもカタログなら机に置いておけるんだよね」

ここに矛盾の根っこがあります。数字だけを見れば紙は非効率。けれど現場の温度を足すと、ゼロにはできない。だから“やめるか続けるか”ではなく“役割を変えて残す”視点が必要になるのではないでしょうか。

紙がまだ効く、いくつかの場面

展示会では特にそうです。人は歩きながらスマホで長文を読みません。視界の端に入るビジュアル、手にしたときの重み──五感に触れる情報は意外と記憶に残るものです。

「冊子の仕立てがきれいだと、それだけで“ちゃんとしてる”印象になる」

そんな声もありました。ブランドの信頼感は、紙の質感や綴じの丁寧さにも宿るのです。

商談の場でも同じです。タブレットで資料を見せると“提示する側”と“見せられる側”の関係になりがち。でも紙なら並んで同じページを指差しながら話ができる。付箋を貼って「ここ、上司に見せますね」と言われた瞬間、そのカタログは社内稟議のツールに変わります。

そして“置いておける”強み。BtoBの意思決定は関係者が多い。担当者の机に置かれた1冊が、別の人の目に入り、棚の背表紙が数週間後に再び引っ張り出される。Webリンクは消えるが、紙は残る。この差は思ったより大きいのかもしれません。

カタログイメージ

紙の弱点と、どう向き合うか

もちろん弱点もあります。制作費、用紙、インキ、輸送、保管──どこを取ってもコストです。大量に刷れば単価は下がるが在庫リスクが重い。小ロットなら柔軟だが単価は上がる。結局どちらを選んでも別の痛みが残ります。

情報更新の遅さも現実です。仕様変更や価格改定があれば、一夜で在庫が“過去の資料”になる。応急処置でシールを貼ることもできますが、体験としてはやはり美しくない。

さらに環境配慮。紙使用量に敏感なお客様は増えています。再生紙、FSC認証紙、ベジタブルインキ──選択肢はあるけれど、コストや品質のバランスを取るのは簡単ではない。だからこそ「なぜ紙を使うのか」をあらかじめ明確にしておく必要があります。

役割を分けると見えてくる“最適距離”

大事なのは紙とWebを同じ土俵で競わせないこと。

紙は入口。第一印象をつくり、視覚と触覚で「選ばれる理由」を短く強く伝える。余白を生かして、写真や図版を主役にする。

Webは深掘り。詳細情報、動画、比較表、FAQ、最新ニュース。更新性はWebの得意領域です。

紙には変わらない基礎情報とストーリーを残し、Webには鮮度の高い情報を集める。結果として紙は長寿命化し、Webは検索に乗る。二つを“無理やり同じことに使わない”のがコツなんです。

よくあるつまずきと静かな解決策

「QRコード、入れたけど誰もスキャンしない」

原因は配置や導線にあります。情報が多すぎて埋もれていたり、誘い文句が弱かったり。比較表の途中に「最新の価格はこちら」と短い一文を入れるだけでも違ってきます。

「紙を減らしたら商談が減った」

これは机に置ける資料がなくなったからかもしれません。全製品カタログはWebに任せ、紙は業界別や用途別に薄くすればいい。薄いほうが机に残ります。

「Webに全部あるから紙は不要」

でもその“全部”は本当にひと目で理解できるでしょうか。検索でたどり着いたページが正しい入口とは限りません。紙は順序を設計して情報を渡せる。これが独自性です。

架空ケースで考える具体像

ある製造業A社は、展示会で分厚い総合カタログを毎年配布していました。配布数は多いのに商談にはつながらない。担当者は在庫と改訂で疲弊。

そこで総合カタログをWeb化し、紙は用途別スリム冊子に分割。冊子の中核ページにはQRを配置し、着地ページでは導入イメージと短い問い合わせ導線だけに絞る。

展示会では来場者に合わせて最適な冊子だけを渡す。結果、会話が具体的になり、QRの読み取り数も増加。問い合わせの質が上がり、提案までの時間が短縮された。

ポイントは「印刷かWebか」ではなく「入口を分け、導線を細くする」設計です。紙の仕様や写真のトーン、コピーの長さまで──すべてマーケティングの意思決定なんです。

セザックスとしてできること

セザックスは創業80年の印刷会社です。自社工場での品質管理から製本・パッケージ・翻訳まで、幅広い実績があります。ここ数年はWebや映像、イベント運営といったデジタル領域も横断して支援しています。

だからこそ紙とWebの“最適距離”を設計できる。紙面とWeb導線を同じテーブルで決め、撮影・図版・DTP・印刷まで一気通貫で実行。変更はWebで即日反映し、紙は次の刷りで対応。こうした地道な積み重ねが販促を強くします。

「予算は限られている。でも商談の質は落としたくない」

そんなときこそ紙かWebかの二択ではなく、役割を分けて並べ直す発想が有効です。

今日から試せる、小さな一手

・総合カタログを用途別に分けてスリム化

・QRコードの遷移先をトップではなく軽い着地ページへ

・稟議用の1枚資料を作って添付しやすくする

・展示会では会話後に1冊だけ渡す

・用紙や加工を場面ごとに最適化する

どれも大がかりな投資ではありません。でも積み重なると、紙は“配った気になるだけのもの”から“商談の起点”に変わります。

おわりに――迷いは設計でほどける

紙を続けるべきか、やめるべきか。白黒で決めたい気持ちは分かります。けれど現場はもっと複雑です。紙は無駄、Webが正義──そんな単純な図式では語れません。

大切なのは距離を決めること。入口は紙、深掘りはWeb。鮮度はWeb、ブランドの手触りは紙。役割を分けるとやるべきことが見えてきます。

「うちの場合はどう分けたらいい?」と感じたら、気軽に相談してください。商材や営業スタイルを伺えれば、配布シーンから逆算した仕様を設計できます。

迷いは悪くない。むしろ良い設計の入口です。紙とデジタルの強みを丁寧に拾っていけば、「紙カタログって、まだ意味あるの?」という問いは、静かに別の問いへと変わっていくはずです。

――“私たちの商談を強くする最適な形はどれだろう”。

その答えを、一緒に探していきませんか。

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