印刷物の環境対応は、再生紙を選ぶだけの段階から、原材料・製造工程・リサイクル適性・情報開示までを総合的に管理する段階へ進んでいます。

この記事でわかること

  • 印刷物の環境対応をめぐる最新トレンド
  • 用紙・インキ・製版・製本で選べる環境配慮
  • FSC認証紙や再生紙を選ぶ際の注意点
  • 環境対応印刷を発注するときの確認項目
  • 環境配慮を企業広報やCSR活動に生かす方法

印刷物の環境対応はどこまで進んでいる?

印刷物の環境対応というと、かつては「再生紙を使う」「植物油インキを指定する」といった資材選びが中心でした。しかし現在は、用紙やインキだけでなく、製版、印刷、製本、加工、包装、配送、廃棄・リサイクルまでを含めて環境負荷を考える方向へ進んでいます。

背景にあるのは、企業のCSR活動やESG経営の浸透に加え、調達先にも環境情報の提示を求める動きです。官公庁などの調達に関係するグリーン購入法も継続的に見直されており、2026年2月に改定された基本方針では、環境性能をより高い水準へ誘導する考え方や、カーボンフットプリントの算定・開示を重視する流れが示されています。

そのため、企業が印刷物を発注するときには、「環境対応紙を使っていますか」という確認だけでは不十分になりつつあります。どのような原材料を使い、どの工程で環境負荷を減らし、使用後にリサイクルできるのかまで確認することが重要です。

最新トレンド1|「再生紙なら環境に良い」だけでは判断しない

環境配慮型の印刷用紙として、再生紙は広く知られています。ただし、古紙配合率だけで用紙の環境性能を判断することは難しくなっています。

古紙は繰り返し再生すると繊維が劣化します。また、高い白色度を求める場合には、古紙の洗浄や漂白に薬品やエネルギーが必要になることがあります。このため、古紙を多く含む紙が、あらゆる用途で最も環境負荷が小さいとは限りません。

紙と森林資源のリサイクルを考える際には、古紙とバージンパルプの配合だけでなく、原料となる木材が適切に管理されているかという視点も欠かせません。

森林認証紙という選択肢

森林認証紙は、適切に管理された森林や、管理された流通経路から調達された原材料を使用した紙です。代表的な制度としてFSC認証があり、原材料の由来や製造・加工・流通の過程を追跡する仕組みが設けられています。

FSCラベルには「FSC 100%」「FSCミックス」「FSCリサイクル」などがあり、使用している原材料によって表示できるラベルが異なります。また、印刷物にFSCラベルを表示するためには、用紙だけでなく、印刷や加工を担当する事業者にも認証管理が求められます。

発注時には、単に「FSC認証紙を使いたい」と伝えるだけでなく、次の点を印刷会社へ確認するとよいでしょう。

  • 希望する紙種でFSC認証品を調達できるか
  • 印刷物にFSCラベルを表示できるか
  • ラベル使用の申請や確認を誰が行うか
  • デザインデータへラベルを配置するタイミング
  • 必要な部数や納期に対応できるか

最新トレンド2|インキは植物由来・低VOCへ進化

オフセット印刷に使用するインキも、環境負荷を抑える方向へ進化しています。

従来のオフセットインキには、石油由来の鉱物油が使用されてきました。これに対して、大豆油や亜麻仁油、桐油、ヤシ油、廃食用油由来の再生油などを利用した植物油インキが普及しています。

環境負荷とインキの進化でも紹介しているように、植物油インキは名刺、パンフレット、カタログ、パッケージなど、幅広い印刷物で利用されています。

VOCを抑えたインキにも注目

VOCとは、揮発性有機化合物のことです。大気中に放出されると、光化学オキシダントなどの原因物質となる可能性があります。

環境対応型インキには、鉱物油の使用を抑えたインキや、VOC成分を大幅に減らしたノンVOCインキがあります。UV照射によって硬化するUVインキも、乾燥時に溶剤を揮発させないという特徴があります。

ただし、インキは環境性能だけで選べばよいわけではありません。用紙との相性、色再現、乾燥性、耐摩擦性、後加工の方法などによって適したインキは異なります。環境対応と印刷品質を両立するには、印刷物の用途を伝えたうえで仕様を決めることが大切です。

最新トレンド3|製版工程では薬品と廃液を減らす

印刷物の完成品だけを見ても分かりにくい環境対応の一つが、製版工程の改善です。

オフセット印刷では、印刷機に取り付ける刷版を作成します。現在は、デジタルデータから直接刷版を出力するCTPが一般的です。従来のフィルムを介した製版と比べて工程を短縮でき、材料の削減や品質の安定にもつながります。

さらに進んだ方式が、現像液やガム液による処理を必要としない無処理プレートです。

無処理プレートを使った印刷では、刷版を印刷機にセットし、印刷準備の工程内で不要な部分を取り除く「機上現像」を行います。薬品を使用する現像処理が不要になるため、現像液や洗浄水、廃液の削減につながります。

また、現像機の清掃や薬品管理が不要になることで、メンテナンス工数や現像不良のリスクを抑えられる点もメリットです。一方で、無処理プレートを安定して運用するには、印刷機の調整や準備運転を含む生産ノウハウが必要です。

最新トレンド4|製本・加工にもリサイクル適性が求められる

用紙やインキが環境配慮型であっても、製本や表面加工に使用する材料によっては、古紙として再生しにくくなることがあります。

例えば、冊子の背を接着剤で固める無線綴じでは、接着剤の種類が開きやすさや耐久性だけでなく、リサイクル適性にも関係します。

PUR製本で使用するPUR系ホットメルトは、従来のEVA系ホットメルトと比べて接着強度が高く、薄く塗布できます。ページを開きやすくできるため、カタログ、写真集、マニュアルなどにも適しています。

PUR系接着剤は硬化後に高温でも溶け出しにくく、古紙処理の工程でパルプと分離しやすいという特徴もあります。塗布量を抑えられるため、接着剤の使用量削減にもつながります。

一方で、PUR製本には専用設備や適切な材料管理が必要です。一般的な製本方法よりコストが上がる場合や、納期に余裕が必要になる場合もあります。環境面のメリットだけでなく、ページ数、用紙、使用期間、保管環境、予算を含めて検討する必要があります。

表面加工は目的を明確にして選ぶ

PP貼り、ラミネート、箔押し、UVニスなどの表面加工は、耐久性や意匠性を高めます。しかし、異なる素材を組み合わせる加工は、古紙リサイクルの工程に影響することがあります。

環境負荷を抑えたい場合は、「本当に全面PP貼りが必要か」「部分的なニス加工で目的を達成できないか」「加工を省いて用紙自体の質感を生かせないか」といった検討が有効です。

一方、長期間使用するマニュアルやカタログでは、表面加工によって耐久性を高め、刷り直しの回数を減らす方が、ライフサイクル全体の負荷を抑えられる場合もあります。加工を一律に減らすのではなく、使用期間や利用環境に合わせて判断することが重要です。

最新トレンド5|資材単体から「製造工程全体」の評価へ

最近の環境対応では、環境配慮型の用紙やインキを使っているかだけでなく、どのような工場で、どのような工程を経て製造されたかも重視されます。

日本印刷産業連合会のグリーンプリンティング認定制度では、環境に配慮した工場、印刷資機材、印刷製品をそれぞれ評価しています。認定工場で製造され、用紙、インキ、製本、表面加工などが基準を満たした印刷物には、GPマークを表示できる仕組みです。

このような認定制度を活用すると、発注企業は「環境に配慮している」という抽象的な説明ではなく、一定の基準に沿って製造されたことを示しやすくなります。

CSR報告書、統合報告書、会社案内、採用案内、広報誌など、企業姿勢を伝える印刷物では、製造工程の環境配慮を説明できること自体が重要な価値になります。

最新トレンド6|カーボンフットプリントと情報開示

今後、印刷物の環境対応で重要性が高まると考えられるのが、温室効果ガス排出量の算定と情報開示です。

カーボンフットプリントは、原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルまで、製品やサービスのライフサイクルで発生する温室効果ガス排出量をCO2換算で示す考え方です。

印刷物では、用紙の製造、インキや版の生産、印刷機の電力、加工、包装、輸送などが算定対象になり得ます。ただし、算定範囲や計算方法によって数値が変わるため、単純に異なる会社の数値を比較できるとは限りません。

発注企業が排出量の把握を必要とする場合は、次の条件を事前に整理して印刷会社へ相談する必要があります。

  • 算定対象とする印刷物
  • 用紙、インキ、加工などの仕様
  • 製造部数
  • 納品先と配送条件
  • 算定する工程の範囲
  • 社内報告や情報開示に必要な精度

現時点では、すべての印刷物で統一的なカーボンフットプリントを簡単に算出できるわけではありません。そのため、まずは用紙重量、部数、加工方法、輸送条件など、排出量に関係する仕様情報を記録できる発注体制を整えることが現実的です。

企業が環境対応印刷を発注するときのチェックリスト

環境対応を具体的な印刷仕様へ落とし込むには、「環境に優しくしてください」と依頼するだけでは十分ではありません。何を重視するのかを整理して印刷会社と共有しましょう。

確認項目主な確認内容
用途配布用、保存用、掲示用など、どのように使用するか
使用期間短期配布か、数年間使用する冊子か
用紙再生紙、森林認証紙、非塗工紙などを選べるか
インキ植物油インキ、低VOCインキなどに対応できるか
製版CTPや無処理プレートを使用しているか
製本中綴じ、PUR製本など、用途とリサイクル適性に合うか
加工PP貼りや箔押しなどが本当に必要か
認証表示FSCラベルやGPマークを表示できるか
包装過剰包装を避け、包装単位を最適化できるか
部数余剰在庫や廃棄を減らせる数量になっているか
配送分納や配送先の集約で輸送負荷を抑えられるか
証明資料使用資材や環境対応を確認できる資料があるか

環境対応と品質・コストを両立するポイント

目的に優先順位をつける

すべての環境対応を一度に取り入れると、用紙の選択肢が狭くなったり、コストや納期に影響したりすることがあります。

まずは、「認証ラベルを表示したい」「VOCを減らしたい」「廃棄部数を減らしたい」「リサイクルしやすくしたい」など、印刷物ごとの目的を明確にしましょう。

部数と在庫を見直す

環境対応紙や植物油インキを使用しても、大量の余剰在庫を廃棄すれば、資源やエネルギーの損失が生じます。

内容の更新頻度が高いカタログやマニュアルでは、必要部数を小ロットで印刷し、改訂のタイミングに合わせて増刷する方法も有効です。一方で、一定数量をまとめて印刷した方が、製造効率や配送効率が高くなる場合もあります。

オフセット印刷とデジタル印刷のどちらが適しているかは、部数だけでなく、ページ数、用紙、色数、改訂頻度、納期などを含めて判断する必要があります。

設計段階から印刷会社へ相談する

デザインが完成してから環境対応を追加しようとすると、用紙の変更によって色の見え方が変わったり、認証ラベルを配置するスペースが不足したり、製本方法を変更できなかったりする場合があります。

企画・仕様設計の段階で印刷会社へ相談すれば、環境性能、品質、コスト、納期のバランスを取りながら、複数の選択肢を比較できます。

環境対応を企業の情報発信につなげる

環境対応印刷は、資材を置き換えるだけの施策ではありません。採用した仕様や選定理由を説明することで、企業姿勢を伝える情報発信にもなります。

例えば、印刷物の奥付や裏表紙、企業サイトなどで、次のような情報を掲載できます。

  • 森林認証紙を採用した理由
  • 植物油インキや低VOCインキを使用したこと
  • リサイクル適性を考慮して加工を選んだこと
  • 必要部数を精査して廃棄を抑えたこと
  • 環境配慮型の製造工程を採用したこと

ただし、「環境に優しい」「CO2を削減した」といった表現を使う場合は、その根拠を示せることが重要です。認証制度、資材証明、算定条件などを確認し、実態以上に環境性能が高いと受け取られる表現は避けましょう。

まとめ|環境対応は印刷物全体の設計課題

印刷物の環境対応は、再生紙や植物油インキを選ぶだけでは完結しません。現在は、森林資源のトレーサビリティ、低VOCインキ、無処理プレート、リサイクルしやすい製本、認定工場での製造、包装・配送の最適化、カーボンフットプリントの把握など、対象範囲が広がっています。

重要なのは、環境対応、品質、使いやすさ、コスト、納期を別々に考えないことです。印刷物の用途や使用期間を整理し、設計段階から印刷会社と相談することで、無理のない環境配慮を実現しやすくなります。

セザックスでは、用紙やインキの選定から、印刷、製本・加工、包装・納品まで、印刷物全体を見据えた仕様設計を支援しています。環境対応印刷の進め方や、認証紙を使用した印刷物をご検討の際は、お気軽にご相談ください。

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